カテゴリ: 楽器の仕組み


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(ライター:山浦雅香)

4月の最終週、第4回シンフォニアリアル講座を「尺八」をテーマに開催しました。

ゲストは尺八奏者の黒田鈴尊(れいそん)さん。

黒田さんは大学で心理学を学んだあと、東京芸術大学、大学院に進学されています。

一つ目の大学で心理学を専攻し「人の心はわからない」ということが分かった、と話される黒田さん。講義では、楽器の仕組みや歴史、古今東西の尺八の曲、楽譜の表記や演奏のテクニックという情報だけでなく、黒田さんが尺八を始められたきっかけ、そしてどんな思いで演奏活動をされているのかといった点を聞かせていただけたのが印象に残りました。

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▲左が黒田鈴尊さん、右が音楽講座主催のヴァイオリニスト須賀麻里江さん


音楽講座シンフォニアでは、ゲストのプロ奏者や主催の須賀さんの生演奏をはさみながら音楽に関連した知識をシェアしています。月額5,000円、会員限定の動画配信もあります(講義に出席できなくても後日視聴できます)

●会員の申し込みはこちらから。シンフォニアのコンセプトなど詳細も公開されています。(須賀麻里江公式サイト)

私のSNSにも動画や写真をアップしているので、ぜひハッシュタグ #須賀麻里江シンフォニア からご覧になってみてください。

※基本的に生配信と後日の動画リンクをお送りします。リアル講座に参加できない場合にもこちらから講座の内容を視聴できます。資料のデータもメールにてお送りします。

■大きさの異なる10本の尺八

今回黒田さんは、参加者が一人一本の楽器を自分の手で持って体験できるようにと、10本もの尺八を会場に持ってきてくださいました。

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▲左のテーブルの上に載っているのはすべて尺八

尺八は、楽器の材料となる竹の太さが様々とあって、長さも太さもどれも異なります。これで同じ譜面を演奏するのかと思うと不思議な感じです。

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▲いろいろなサイズの尺八。右のものは1m以上になります。

同じ譜面…といっても、尺八の譜面には、おさえる穴の場所が書いてありますが、同じように押さえても息の吹込み方で音程が変わるそうです。なので、同じ譜面であっても演奏者の解釈で異なる演奏となるそうです。


■尺八の基本~5つの穴と「ロツレチリ」~

まずは尺八の基本構造と演奏の基本について紹介します。

尺八というと、竹でできた楽器を思い浮かべることのできる人も多いでしょう。でも、間近で見るチャンスはそう多くはないと思います。

尺八という名前は、長さが一尺八寸(約54.5cm)であることに由来するそうです。しかし実際には、上の写真のようにいろんなサイズの楽器があります。

現在の尺八は「5つ」穴がありますが、昔は6つあったそうです。この5つの穴をふさぐ、少しふさぐ、ふさがないことにより異なる音が出てきます。写真のように、縦に構え息を吹き込むと音が出ます。

譜面はカタカナで記されていて、5つの穴を「ロツレチリ」の文字で表記します。

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▲カタカナなら読める…かと思いきや読めない尺八の譜面


舌の動きが悪くなり言葉が不明瞭になることを「呂律が回らない」と言いますが、じつはこの「ロツレチリ」の譜面をうまく演奏できない様子が語源になっている…という説もあるそうです。

また、ある音を高くすることを「カリ」、低くすることを「メリ」といい、こちらは間延びした様子を表す「メリハリがない」の語源となっている…という説もあるそうです。

こんな身近なところに、尺八に関連した言葉が存在しているとは思いもよらない事実でした!


■虚無僧寺と二つの流派について

シンフォニアのリアル講座では、毎回生演奏が聴けます。今回は各地の「虚無僧寺」(こむそうでら)に伝わる曲を演奏いただきました。

これらの曲は、尺八を法器として吹くことで禅の修行とする、即ち「尺八の一音に徹底することで悟りを得ること(吹禅 すいぜん)」を宗旨として吹かれていました。

尺八の流派には、琴古流(きんこりゅう)都山流(とざんりゅう)という二つの有名な流派があります。

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▲琴古流の楽譜の表紙

今回のレクチャーコンサートでは、まず最初に、最も古い尺八の楽曲とされている曲『虚空』(こくう)を演奏いただきました。

虚竹禅師寄竹(きょちくぜんし きちく)という人物により作られたと言われる『虚空』は、霊夢(れいむ)と言われる夢で聴いた曲を作品にしたもので、『虚鈴(きょれい)』『霧海ヂ(むかいぢ)』の2曲と合わせて三虚霊と呼ばれています。

さらに、九州、関東(栃木)、青森、新潟の虚無僧寺に伝わる曲を披露していただきました。

曲には、それぞれの土地の雰囲気も一緒に込められているようです。青森の虚無僧寺に伝わる曲には、1年を通して強い風が吹き高い波が立つ津軽海峡のような激しさがあります。



聴いているとなんだか切ない気持ちにさせられる理由は、笛の音そのものではなく、生きることの苦しみに向き合ってきた僧たちが演奏してきた楽器だからかな…と思えてきました。

江戸時代の吉原では、その演奏を聴くと切なくなり身投げしてしまう人が増える…という理由で、道を歩きながらの演奏が禁止された曲もあったそうです。

世の不条理は、程度の差こそあれいつの時代も変わらず存在する、と私は思っているのですが、それをよくも悪くも救ってくれるのが音楽だとも、思っています。私は音楽を聴いているといろんなことが頭を巡る方なのですが、それは作曲者や演奏者の思いがそこに込められているからなのかもしれません。




■宇宙を背景に尺八で、地球を代表する一曲を生演奏

各地の虚無僧寺に伝わる『巣鶴鈴慕』(そうかくれいぼ)、別名『鶴の巣篭り』も尺八を代表する曲の一つで、鶴が厳しい環境で子育てをする様を描いた作品だそうです。

実はこの曲は1977年に地球から打ち上げられたボイジャー探査機に搭載されたレコードにもおさめられています。

レコードには自然の音(風や波の音)に加えて、90分間分、各国の様々な音楽が収録されています。『巣鶴鈴慕』は日本を代表する曲として入っています。

今回のリアル講座では、実際にボイジャー号から送られてくる宇宙の映像を壁面に投影し、YouTubeの動画を背景に黒田さんが『巣鶴鈴慕』を演奏してくださいました!

「みなさんと、宇宙に行ってみたいと思います」という前フリから始まった尺八の演奏に、会場の皆さんが引き込まれます。



この時、参加者の皆さんは(私もですが)映像で宇宙の様子を見ながら、尺八の演奏を聴いている…という状態です。

ですが、黒田さんの120分間のお話しを聞いた後に改めて考えてみると…「一つの音の中にすべてがある」の黒田さんの言葉の通り、会場にいながら、心で宇宙に行くことは可能だったのかも、と思えてきます。

生きることのやるせなさや、喜びは自分にとっては大きなことですが、自然の摂理が作り上げる壮大な環境、そうしたものと比べたらどうってことのない存在であるはず。でもそんな小さな自分が、思考や記憶力を手に入れたからこそ悩むということ…そうして自分を俯瞰できることが「宇宙に行く」ということなのかもしれません。

黒田さんのお話しを聞き、演奏を鑑賞していると、楽器というのはただ決められた動作を行い音を出すものではなく、奏者の哲学に支えられながら物語を伝えるための道具なのだな、と思えてくるのでした。

尺八の知識だけでなく、尺八と生きている黒田さんの考え方をたくさんお聞きしたからこそ、普段考えが及ばない色々なことに思考が広がる貴重な機会となったように思います。




■一人一本の尺八体験と演奏後のお抹茶

レクチャーコンサートは約90分でしたが、興味深いお話しに耳を傾け、生演奏に聞きほれているとあっという間に時間がたっていました。

最後の30分間は、参加者の皆さんの尺八演奏体験とお茶の時間としました。

尺八はリコーダーとは異なり音を出すのが難しい楽器とのことでしたが、黒田さんの的確なご指導により、参加の皆さん全員に一度は音を出してもらうことができました。

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▲息の吹込み方をアドバイスしてくださる黒田さん

ちなみに、尺八は入門の楽器(樹脂製)がAmazonで売られており、興味がある場合にはこちらを使ってスタートするのが黒田さんのおすすめとのことです。


今回の会場は浅草にある「静心 Shizu-Kokoro」さんでした。お茶碗やお抹茶の販売もしています。

参加の皆さんで演奏を体験したあとは、こちらで購入したお茶を皆さんでいただきながら、引き続き黒田さんの音楽談話をお聞きしました。

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静心さんでは普段、裏千家茶道の羽根石先生によるお茶体験やお稽古を行っているそうです。


■次回のお知らせ【2019年5月度リアル講座】

次回も5月の最終日曜、14時~16時にてレクチャーコンサートを開催いたします。
会場やテーマなどの詳細は、確定次第、お知らせいたします。
どうぞお楽しみに!

会場にお越しになれない会員の方でも、ライブ配信や動画の後日視聴も可能なので、好きな時間に好きな場所でレクチャーに参加できます。

またメルマガで配信される須賀さんのミニクイズで、楽しみながら、レクチャーコンサート前に関連知識が身につきますよ♪


●会員の申し込みはこちらから。シンフォニアのコンセプトなど詳細も公開されています。(須賀麻里江公式サイト)

●第一回講座のレポートはこちら(外部のブログが開きます)
月額音楽講座「シンフォニア」1月に参加しました!【バイオリン】





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(ライター:山浦雅香)


3月は、月額音楽講座「シンフォニア」第3回目のリアル講座を開催しました。

今回はチェンバロが2台もある会場で、約10名の参加者にお越しいただきました!

会場は株式会社ギタルラさんの東京古楽器センターです。
※ブログでお知らせした最寄駅が「目黒駅」となっていましたが、正しくは「目白駅」でした。大変失礼しました。

今回のテーマは「チェンバロで聴くモーツァルト」ということで、現在ドイツに留学中のフォルテピアノ奏者 荒川智美さんをゲストにお招きし、レクチャーいただきました。


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▲左がフォルテピアノ奏者の荒川智美さん、右が音楽講座主催のヴァイオリニスト須賀麻里江さん

会場は実はあまり広くなかったのですが(10名でぴっちり、でした)その分楽器とも荒川さんとも距離が近く、奏でる音を体のすみずみで受け止めることのできるぜいたくな2時間になったと思います。

私は個人的にチェンバロの音が大好きで、チェンバロの協奏曲をスマホに入れているくらいなのですが、間近に聴くのは人生二度目で、興奮してたくさん動画を撮ってしまいました。



こんな感じでとっても素敵な演奏なのですが、録音を聴くのと現場の音はやっぱり全然違います。生演奏を月に一回必ず聴けるシンフォニア、月額5,000円は本当にお得です!
もちろん録画でもすっごく素敵なんですが、どうしたってリアルは格別です。

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私のSNSにも動画をアップしているので、ぜひハッシュタグ #須賀麻里江シンフォニア からご覧になってみてください。

※シンフォニアのリアル講座は基本的に、録画・録音・SNSへのアップOKです! 参加者さんの個人が特定できるものの公開はご遠慮願います。
※リアル講座に参加できない場合も、生配信と後日の動画リンクがあるのでまったく問題ありません! 資料のデータもメールにてお送りします。

■チェンバロの形

今回の講座では、モーツァルト(ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
Wolfgang Amadeus Mozart)
が、幼少期に父親のレオポルト・モーツァルトと出かけた演奏旅行を主軸に、行く先々でのエピソードと合わせて、複数の作曲家の様々な曲を演奏いただきました。

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▲リアル講座では資料をお渡しします。後日データで会員の皆さまにお送りします。

今回の講座ではレクチャーを交えた演奏のあと、楽器の仕組みについて解説いただいたのですが、こちらのブログでは先に楽器の構造について当日お話しいただいた内容を簡単にまとめたいと思います。

チェンバロは、ご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、ピアノを細く長くしたような形の楽器です。

ピアノと異なり、弦を爪の形をしたパーツではじくことで音を出します。

鍵盤は二段になっていて、上下が連動して動いたり片方だけ動いたりします。

ピアノほどの大きな音が出ないので、鍵盤をたたかなくても一緒にオクターブ上の音が奏でられるような仕組みもあるそうです。

鍵盤の色や、楽器のデザインにピアノよりも個性があるのかな?と、初めて2台いっぺんに楽器を目にして思いました。

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▲会場にあったチェンバロその1。鍵盤は黒白、内側は赤。

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▲会場にあったチェンバロその2。鍵盤は木と白、内側に花や生き物が描かれている。

荒川さんのつむぎだす流れるようなメロディと、かろやかな手元に見とれていると、そんな楽器の仕組みには思いをはせる余裕は実は私にはなかったのですが…

演奏は何度思い出してもうっとりしてしまいます。ピアノは指で鍵盤を押し下げて演奏するもの…と考えていたのですが、こうして2時間荒川さんの演奏姿を拝見していると、もっと小さな楽器と同じく体全体で奏でるものなのだなと感じさせられました。




■モーツァルトのたどった道と数々の曲

さて、話をモーツァルトにもどします。

モーツァルトが幼少期に父親と初めて出かけた、なんと3年半に及ぶ演奏旅行は、ザルツブルグから始まり、ヴィーン、アウグスブルグ、パリ、ロンドン、デン・ハーグ(オランダ)の各都市を訪れたそうです。

平成が終わる今の時代でも、これだけの都市を回るのは大変そう! 旅行としては楽しそうですが、演奏を目的とした行程、プレッシャーもあったのではと思いをはせてしまいました。

そんなモーツァルトのその時々の成長や、お父さんから受け継いだ性格がどのように曲に現れているのかを、荒川さんの説明を通じて感じ取れたように思います。


モーツァルトの父親のロンドン滞在の感想が「ビールがおいしい」だったことを知り、そして幼いモーツァルトの作曲家に対する無邪気な振る舞いを「きっと困らせちゃったでしょうね」と話される荒川さんの口ぶりがとても優しくて、なぜだか私もモーツァルトと距離が縮まったように感じてしまいました。

そして荒川さんが、生誕300周年の父親レオポルドモーツァルトよりもベートーヴェンの生誕250年が注目を受けていることに「ちょっと不憫ですね」と感想を漏らされて、音楽家の視点って面白い!と思ってしまいました。普段聞けない音楽家の本音が聞けるのもシンフォニアの醍醐味です。

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▲講義に登場する人物の肖像画も準備いただき、想像を膨らませながらお話を聞きました。

今では全く知られていないけれど、と説明されてからある作曲家の作品を奏でる荒川さん。演奏を聴いている時には何も考えていなかったけれど、こうして知らず知らず音楽の知識が身についていく人生って幸せだなあと、後日ふと思いました。

ちなみに、今回はテーマがモーツァルトということで、サントリーのモーツァルト チョコレートクリームというリキュールを用意して参加いただいたみなさんと楽しみました!

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▲レクチャー中はこんな感じで飾っておきました。



■次回2019年4月リアル講座は「和楽器」

次回は「尺八のいろは」をテーマに尺八奏者・黒田鈴尊(くろだれいそん)さんをお招きし、尺八の演奏を含むレクチャーコンサートをを開催します。シンフォニア初の和楽器の会です。
※今回のみ、祝日(月曜)の開催です、ご注意ください!

日時:4月29日(月) 14:00~16:00
会場:静心 Shizu-Kokoro 裏千家茶道教室
東京都台東区西浅草1-9-8
https://www.teaceremony.co/

国際尺八コンクール2018inロンドン優勝の黒田さんが、尺八のいろは、古典から現在進行形で開発されているテクニックまでレクチャー。体験&ミニコンサートの形式です。

会場にお越しになれない会員の方でも、ライブ配信や動画の後日視聴も可能なので、好きな時間に好きな場所でレクチャーに参加できます。

動画は必要に応じて手元などアップにして撮影しますので(固定ではありません)、一度の講座を複数の角度から楽しめます♪



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月額音楽講座「シンフォニア」1月に参加しました!【バイオリン】

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(ライター:山浦雅香)


月額音楽講座「シンフォニア」の第2回リアル講座を開催しました。

今回は、白金高輪駅から徒歩10分弱の「弦楽器工房ニヒラ」をお訪ねして、バイオリンの材料、作り方、修理方法、そしてその形の歴史的な変遷などのお話を聞かせていただきました。豊富な資料を実際にお見せいただきながら、最後には仁平さんが作られた美しい楽器を使って須賀さんが演奏を披露してくれました。


月額音楽講座「シンフォニア」とは?
バイオリニスト須賀麻里江が開催する、月額の音楽講座です。
クラシック音楽ってよくわからないという方にも、もっと知りたいというかたにも、老若男女とわず、みなさんに楽しんでいただける講座をつくりたい!との思いから2019年1月にスタートさせました。

月一回のリアル講座は毎月異なるテーマを設定し、会員の方がクラシック音楽に関する知識を深められるような機会を提供します。実際に楽器に触れることもできます。

会員はリアル講座への出席のほか、リアル講座のライブ配信、後日視聴、当日写真の共有や、メルマガの配信を受けることができます。


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月額音楽講座「シンフォニア」1月に参加しました!【バイオリン】

●会員の申し込みはこちらから。シンフォニアのコンセプトなど詳細も公開されています。(須賀麻里江公式サイト)


本編では当日の様子やレクチャー内容を皆さんにシェアいたします。


■バイオリンの作り方

仁平さんの工房は、作業台が二台あるシンプルな空間です。冬場の工房、あまり暖かくはない…のは、仁平さんの好みなのか、楽器のためなのかは、確認しそびれてしまいました。

講演スペースとなる片方の作業台にはバイオリンの表と裏になる板と、完成した楽器、図鑑のような本が置かれています。

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▲参加者の皆さんとほぼ立ちっぱなしで講義。椅子の数はぴったり人数分。余計なもののないスペースが、職人の歩む一途な生き方を象徴しているようでした。


楽器の向こう側の2枚の板が、バイオリンの表と裏になる途中の木の板です。写真左側に見えるのが、ネック(左手で握る部分)になる途中の木材です。

ネックの形に切り出された材料の左右に見えるのは、バイオリンの型です。これを基準に、表板と裏板、楽器の側面を作り上げていきます。

円柱形の木材を立てて、その切り口を上から見て放射線状に切り出した板を二枚くっつけて、1枚の板にします。こうして作った2枚の板を楽器の表板・裏板にして楽器作りは始まります。バイオリンの表板・裏板の断面は、この時点から中心部が厚く、側面に近づくほど薄いという形になっているそう。

実際に一台のバイオリンを作り上げていくのは非常に時間のかかる工程です。仁平さんはバイオリンであれば数か月を費やして生み出すとのこと。ということで、当日はダイジェストで様々な工程をご紹介いただきました。

私の心に残ったのは、なんといってもパフリング。

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▲バイオリンの表板


パフリングとは、楽器の表板のふちに沿って入れられた黒いラインのこと。これ、「黒いインクで描いている」と思っている方、いるんではないでしょうか?

ということは?
…違うんです。これ、細い、黒く染め上げた木の棒を入れているんです。

実際に溝を作る様子も実演してくださいました。

昔は表板・裏板と側面の組み立てをしてから入れていたそうですが、今では表板に入れてから組み立てるのが主流とのこと。

さらに驚くのは、この一本の棒は、なんと三枚もの、とても薄い木を重ね合わせて作られている点です。この細い木は完成品も入手可能ですが、仁平さんはご自身の手で木を染める工程から手作りされています。「美は細部に宿る」の現場を見せていただきました。


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▲中に入っている細い黒い木

溝を掘る作業だけではなく、木を細かく加工していく楽器作りでは、オリジナルの工具を持つ職人さんも少なくないそうです。仁平さんが動画で使っているのは、やはりオリジナルの小さなのみです。

ちなみに職人修行の中で一番難易度の高い鍛錬の一つが「側面の板を曲げる」ことだそうです。

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▲楽器の側面の板を湾曲させるのに使う道具

写真のような工具を使い、過熱した金属に木材を押し当ててゆっくりと湾曲させていくそうですが、慣れていないと焦がしてしまうといった失敗があるんだとか。コントラバスなんてどれだけ大変なことだろう…!と思ってしまいました。


仕上げの工程と仁平さんの世界観

ネックの彫刻や指板と合体させる工程などは口頭でのみ説明いただきました。このあたりには時代による特徴が大きく出ているそうです。バイオリンはイタリアにたくさんあったものが、フランスに持ち込まれ、そこ(フランス)で改造されていったそうです。

ネックのこのスクリューの部分の曲線と曲線の位置関係が、アマティのものはリンクしていて、その後はそうでなくなったとか…

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▲ネックのスクリュー部分。


「楽器の制作にはセンスがないといけないということですね」という参加者さんの言葉に、すかさず「センスはあるかないかではなく、磨くか磨かないかが重要なのです」と返す仁平さん。

職人だなあ…と感じました。職人は職業ではなく、生き方そのものなのかな、とも思わされました。自分の理念に忠実に従うことと、商業的価値の一致したところに、仁平さんの弦楽器職人という境地があったのかもしれません。

バイオリンの作り方の概要を教えてもらいにいったわけですが、イタリアのクレモナそしてフランスのパリで長く生活されてきた仁平さんがその人生で得られた知見も、その場で一緒にシェアしていただけたように感じました。


■バイオリンの修理

こうして、細部まで手をかけて楽器が完成します。でも、楽器は実際に弾いてもらわなければ楽器としての意味がなくなってしまう、と思うのは私だけでしょうか。

仁平さんが作られた美しい楽器は、須賀さんを通じて生かしてもらった、というように見えてしまいます。

でも、須賀さん自身もまた、楽器なしには生きていけないんじゃないかな…と言ったら、ちょっとロマンチックに過ぎるでしょうか。



後半では楽器の修理について説明いただきました。本体から木を削りだす方法、そして他の木を継ぐ方法があるそうです。

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▲修理した楽器の写真を見ながら説明

楽器の価値をなるべく高く保つためには「修理をしたあと」がわからないようにするのが重要とのこと。修理後の見た目の変化は、新しく表面に塗るニスの種類が、もともと塗られているそれとどれだけ同じかという点に影響を受けるそうで、ニスの成分をブラックライトで透かして読み解くような人もいるらしいです。

そもそも修理というのは、楽器の所有者(演奏家ではなく)が、楽器をより高額で売るために需要が生じるものなのだ、という説明が印象的でした。ただ、須賀さん自身も仁平さんに修理をお願いしたことがあると話していたので、現代で言えば、演奏者自身が修理を必要とする、という状況は十分にあるということでしょう。

仁平さんのお話しではところどころ、楽器の市場価値という側面にも言及されていたのが印象的でした。楽器職人というのはビジネスの世界とは縁遠いのだろう、作り上げた楽器の市場で付けられる価値にはさほど関心を払っていないのが職人というものなのでは、という私の先入観が、講座の2時間で払拭されたようにも思います。

楽器の音は作りの良しあしだけで決められるものではなく、演奏者によって音は変わるものなのだという言葉も印象的でした。




■次回はチェンバロとモーツァルト【第3回リアル講座】2019年3月開催

今回は仁平さんの人生哲学もお聞きでき、音楽(それを奏でる楽器も含め)と生活というのは切っても切り離せないものだなという思いをさらに強めて帰路についた私でした。

リアルの会場で音楽家の皆さんとの空間を楽しむのも良いですが、会員の方ならライブ配信や動画の後日視聴も可能ですので、好きな時間に好きな場所でレクチャーに参加できます。

動画は必要に応じて手元などアップにして撮影しますので(固定ではありません)、毎月現場に行くのはちょっと難しい…という場合でも全く問題なし!です。


次回の月一リアル講座は以下の詳細で行います。
ご参加希望の場合は以下のリンクよりお申込みをお願いいたします。
申し込み→月額音楽講座「シンフォニア」


日時:3月24日(日) 16:00~18:00
会場:東京古楽器センター ※最寄駅はJR目黒駅になります
http://www.guitarra.co.jp/eigyou.html

テーマ:チェンバロで聴くモーツァルト
フォルテピアノ奏者・荒川智美さんをお迎えして、チェンバロで演奏しつつお話して頂くレクチャーコンサートです。
モーツァルトが5歳の時に作曲した曲や、同世代の作曲家作品などを演奏して頂きます。モーツァルトの作品をチェンバロでお聴きいただける機会は、なかなかありません。曲のイメージが変わります。
レクチャー後に、カフェタイム付き。



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