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(ライター:山浦雅香)


月額音楽講座「シンフォニア」の第2回リアル講座を開催しました。

今回は、白金高輪駅から徒歩10分弱の「弦楽器工房ニヒラ」をお訪ねして、バイオリンの材料、作り方、修理方法、そしてその形の歴史的な変遷などのお話を聞かせていただきました。豊富な資料を実際にお見せいただきながら、最後には仁平さんが作られた美しい楽器を使って須賀さんが演奏を披露してくれました。


月額音楽講座「シンフォニア」とは?
バイオリニスト須賀麻里江が開催する、月額の音楽講座です。
クラシック音楽ってよくわからないという方にも、もっと知りたいというかたにも、老若男女とわず、みなさんに楽しんでいただける講座をつくりたい!との思いから2019年1月にスタートさせました。

月一回のリアル講座は毎月異なるテーマを設定し、会員の方がクラシック音楽に関する知識を深められるような機会を提供します。実際に楽器に触れることもできます。

会員はリアル講座への出席のほか、リアル講座のライブ配信、後日視聴、当日写真の共有や、メルマガの配信を受けることができます。


●第一回講座のレポートはこちら(外部のブログが開きます)
月額音楽講座「シンフォニア」1月に参加しました!【バイオリン】

●会員の申し込みはこちらから。シンフォニアのコンセプトなど詳細も公開されています。(須賀麻里江公式サイト)


本編では当日の様子やレクチャー内容を皆さんにシェアいたします。


■バイオリンの作り方

仁平さんの工房は、作業台が二台あるシンプルな空間です。冬場の工房、あまり暖かくはない…のは、仁平さんの好みなのか、楽器のためなのかは、確認しそびれてしまいました。

講演スペースとなる片方の作業台にはバイオリンの表と裏になる板と、完成した楽器、図鑑のような本が置かれています。

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▲参加者の皆さんとほぼ立ちっぱなしで講義。椅子の数はぴったり人数分。余計なもののないスペースが、職人の歩む一途な生き方を象徴しているようでした。


楽器の向こう側の2枚の板が、バイオリンの表と裏になる途中の木の板です。写真左側に見えるのが、ネック(左手で握る部分)になる途中の木材です。

ネックの形に切り出された材料の左右に見えるのは、バイオリンの型です。これを基準に、表板と裏板、楽器の側面を作り上げていきます。

円柱形の木材を立てて、その切り口を上から見て放射線状に切り出した板を二枚くっつけて、1枚の板にします。こうして作った2枚の板を楽器の表板・裏板にして楽器作りは始まります。バイオリンの表板・裏板の断面は、この時点から中心部が厚く、側面に近づくほど薄いという形になっているそう。

実際に一台のバイオリンを作り上げていくのは非常に時間のかかる工程です。仁平さんはバイオリンであれば数か月を費やして生み出すとのこと。ということで、当日はダイジェストで様々な工程をご紹介いただきました。

私の心に残ったのは、なんといってもパフリング。

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▲バイオリンの表板


パフリングとは、楽器の表板のふちに沿って入れられた黒いラインのこと。これ、「黒いインクで描いている」と思っている方、いるんではないでしょうか?

ということは?
…違うんです。これ、細い、黒く染め上げた木の棒を入れているんです。

実際に溝を作る様子も実演してくださいました。

昔は表板・裏板と側面の組み立てをしてから入れていたそうですが、今では表板に入れてから組み立てるのが主流とのこと。

さらに驚くのは、この一本の棒は、なんと三枚もの、とても薄い木を重ね合わせて作られている点です。この細い木は完成品も入手可能ですが、仁平さんはご自身の手で木を染める工程から手作りされています。「美は細部に宿る」の現場を見せていただきました。


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▲中に入っている細い黒い木

溝を掘る作業だけではなく、木を細かく加工していく楽器作りでは、オリジナルの工具を持つ職人さんも少なくないそうです。仁平さんが動画で使っているのは、やはりオリジナルの小さなのみです。

ちなみに職人修行の中で一番難易度の高い鍛錬の一つが「側面の板を曲げる」ことだそうです。

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▲楽器の側面の板を湾曲させるのに使う道具

写真のような工具を使い、過熱した金属に木材を押し当ててゆっくりと湾曲させていくそうですが、慣れていないと焦がしてしまうといった失敗があるんだとか。コントラバスなんてどれだけ大変なことだろう…!と思ってしまいました。


仕上げの工程と仁平さんの世界観

ネックの彫刻や指板と合体させる工程などは口頭でのみ説明いただきました。このあたりには時代による特徴が大きく出ているそうです。バイオリンはイタリアにたくさんあったものが、フランスに持ち込まれ、そこ(フランス)で改造されていったそうです。

ネックのこのスクリューの部分の曲線と曲線の位置関係が、アマティのものはリンクしていて、その後はそうでなくなったとか…

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▲ネックのスクリュー部分。


「楽器の制作にはセンスがないといけないということですね」という参加者さんの言葉に、すかさず「センスはあるかないかではなく、磨くか磨かないかが重要なのです」と返す仁平さん。

職人だなあ…と感じました。職人は職業ではなく、生き方そのものなのかな、とも思わされました。自分の理念に忠実に従うことと、商業的価値の一致したところに、仁平さんの弦楽器職人という境地があったのかもしれません。

バイオリンの作り方の概要を教えてもらいにいったわけですが、イタリアのクレモナそしてフランスのパリで長く生活されてきた仁平さんがその人生で得られた知見も、その場で一緒にシェアしていただけたように感じました。


■バイオリンの修理

こうして、細部まで手をかけて楽器が完成します。でも、楽器は実際に弾いてもらわなければ楽器としての意味がなくなってしまう、と思うのは私だけでしょうか。

仁平さんが作られた美しい楽器は、須賀さんを通じて生かしてもらった、というように見えてしまいます。

でも、須賀さん自身もまた、楽器なしには生きていけないんじゃないかな…と言ったら、ちょっとロマンチックに過ぎるでしょうか。



後半では楽器の修理について説明いただきました。本体から木を削りだす方法、そして他の木を継ぐ方法があるそうです。

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▲修理した楽器の写真を見ながら説明

楽器の価値をなるべく高く保つためには「修理をしたあと」がわからないようにするのが重要とのこと。修理後の見た目の変化は、新しく表面に塗るニスの種類が、もともと塗られているそれとどれだけ同じかという点に影響を受けるそうで、ニスの成分をブラックライトで透かして読み解くような人もいるらしいです。

そもそも修理というのは、楽器の所有者(演奏家ではなく)が、楽器をより高額で売るために需要が生じるものなのだ、という説明が印象的でした。ただ、須賀さん自身も仁平さんに修理をお願いしたことがあると話していたので、現代で言えば、演奏者自身が修理を必要とする、という状況は十分にあるということでしょう。

仁平さんのお話しではところどころ、楽器の市場価値という側面にも言及されていたのが印象的でした。楽器職人というのはビジネスの世界とは縁遠いのだろう、作り上げた楽器の市場で付けられる価値にはさほど関心を払っていないのが職人というものなのでは、という私の先入観が、講座の2時間で払拭されたようにも思います。

楽器の音は作りの良しあしだけで決められるものではなく、演奏者によって音は変わるものなのだという言葉も印象的でした。




■次回はチェンバロとモーツァルト【第3回リアル講座】2019年3月開催

今回は仁平さんの人生哲学もお聞きでき、音楽(それを奏でる楽器も含め)と生活というのは切っても切り離せないものだなという思いをさらに強めて帰路についた私でした。

リアルの会場で音楽家の皆さんとの空間を楽しむのも良いですが、会員の方ならライブ配信や動画の後日視聴も可能ですので、好きな時間に好きな場所でレクチャーに参加できます。

動画は必要に応じて手元などアップにして撮影しますので(固定ではありません)、毎月現場に行くのはちょっと難しい…という場合でも全く問題なし!です。


次回の月一リアル講座は以下の詳細で行います。
ご参加希望の場合は以下のリンクよりお申込みをお願いいたします。
申し込み→月額音楽講座「シンフォニア」


日時:3月24日(日) 16:00~18:00
会場:東京古楽器センター ※最寄駅はJR目黒駅になります
http://www.guitarra.co.jp/eigyou.html

テーマ:チェンバロで聴くモーツァルト
フォルテピアノ奏者・荒川智美さんをお迎えして、チェンバロで演奏しつつお話して頂くレクチャーコンサートです。
モーツァルトが5歳の時に作曲した曲や、同世代の作曲家作品などを演奏して頂きます。モーツァルトの作品をチェンバロでお聴きいただける機会は、なかなかありません。曲のイメージが変わります。
レクチャー後に、カフェタイム付き。



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