201904_6


(ライター:山浦雅香)

4月の最終週、第4回シンフォニアリアル講座を「尺八」をテーマに開催しました。

ゲストは尺八奏者の黒田鈴尊(れいそん)さん。

黒田さんは大学で心理学を学んだあと、東京芸術大学、大学院に進学されています。

一つ目の大学で心理学を専攻し「人の心はわからない」ということが分かった、と話される黒田さん。講義では、楽器の仕組みや歴史、古今東西の尺八の曲、楽譜の表記や演奏のテクニックという情報だけでなく、黒田さんが尺八を始められたきっかけ、そしてどんな思いで演奏活動をされているのかといった点を聞かせていただけたのが印象に残りました。

201904_1
▲左が黒田鈴尊さん、右が音楽講座主催のヴァイオリニスト須賀麻里江さん


音楽講座シンフォニアでは、ゲストのプロ奏者や主催の須賀さんの生演奏をはさみながら音楽に関連した知識をシェアしています。月額5,000円、会員限定の動画配信もあります(講義に出席できなくても後日視聴できます)

●会員の申し込みはこちらから。シンフォニアのコンセプトなど詳細も公開されています。(須賀麻里江公式サイト)

私のSNSにも動画や写真をアップしているので、ぜひハッシュタグ #須賀麻里江シンフォニア からご覧になってみてください。

※基本的に生配信と後日の動画リンクをお送りします。リアル講座に参加できない場合にもこちらから講座の内容を視聴できます。資料のデータもメールにてお送りします。

■大きさの異なる10本の尺八

今回黒田さんは、参加者が一人一本の楽器を自分の手で持って体験できるようにと、10本もの尺八を会場に持ってきてくださいました。

201904_2
▲左のテーブルの上に載っているのはすべて尺八

尺八は、楽器の材料となる竹の太さが様々とあって、長さも太さもどれも異なります。これで同じ譜面を演奏するのかと思うと不思議な感じです。

201904_4
▲いろいろなサイズの尺八。右のものは1m以上になります。

同じ譜面…といっても、尺八の譜面には、おさえる穴の場所が書いてありますが、同じように押さえても息の吹込み方で音程が変わるそうです。なので、同じ譜面であっても演奏者の解釈で異なる演奏となるそうです。


■尺八の基本~5つの穴と「ロツレチリ」~

まずは尺八の基本構造と演奏の基本について紹介します。

尺八というと、竹でできた楽器を思い浮かべることのできる人も多いでしょう。でも、間近で見るチャンスはそう多くはないと思います。

尺八という名前は、長さが一尺八寸(約54.5cm)であることに由来するそうです。しかし実際には、上の写真のようにいろんなサイズの楽器があります。

現在の尺八は「5つ」穴がありますが、昔は6つあったそうです。この5つの穴をふさぐ、少しふさぐ、ふさがないことにより異なる音が出てきます。写真のように、縦に構え息を吹き込むと音が出ます。

譜面はカタカナで記されていて、5つの穴を「ロツレチリ」の文字で表記します。

IMG_1261
▲カタカナなら読める…かと思いきや読めない尺八の譜面


舌の動きが悪くなり言葉が不明瞭になることを「呂律が回らない」と言いますが、じつはこの「ロツレチリ」の譜面をうまく演奏できない様子が語源になっている…という説もあるそうです。

また、ある音を高くすることを「カリ」、低くすることを「メリ」といい、こちらは間延びした様子を表す「メリハリがない」の語源となっている…という説もあるそうです。

こんな身近なところに、尺八に関連した言葉が存在しているとは思いもよらない事実でした!


■虚無僧寺と二つの流派について

シンフォニアのリアル講座では、毎回生演奏が聴けます。今回は各地の「虚無僧寺」(こむそうでら)に伝わる曲を演奏いただきました。

これらの曲は、尺八を法器として吹くことで禅の修行とする、即ち「尺八の一音に徹底することで悟りを得ること(吹禅 すいぜん)」を宗旨として吹かれていました。

尺八の流派には、琴古流(きんこりゅう)都山流(とざんりゅう)という二つの有名な流派があります。

201904_5
▲琴古流の楽譜の表紙

今回のレクチャーコンサートでは、まず最初に、最も古い尺八の楽曲とされている曲『虚空』(こくう)を演奏いただきました。

虚竹禅師寄竹(きょちくぜんし きちく)という人物により作られたと言われる『虚空』は、霊夢(れいむ)と言われる夢で聴いた曲を作品にしたもので、『虚鈴(きょれい)』『霧海ヂ(むかいぢ)』の2曲と合わせて三虚霊と呼ばれています。

さらに、九州、関東(栃木)、青森、新潟の虚無僧寺に伝わる曲を披露していただきました。

曲には、それぞれの土地の雰囲気も一緒に込められているようです。青森の虚無僧寺に伝わる曲には、1年を通して強い風が吹き高い波が立つ津軽海峡のような激しさがあります。



聴いているとなんだか切ない気持ちにさせられる理由は、笛の音そのものではなく、生きることの苦しみに向き合ってきた僧たちが演奏してきた楽器だからかな…と思えてきました。

江戸時代の吉原では、その演奏を聴くと切なくなり身投げしてしまう人が増える…という理由で、道を歩きながらの演奏が禁止された曲もあったそうです。

世の不条理は、程度の差こそあれいつの時代も変わらず存在する、と私は思っているのですが、それをよくも悪くも救ってくれるのが音楽だとも、思っています。私は音楽を聴いているといろんなことが頭を巡る方なのですが、それは作曲者や演奏者の思いがそこに込められているからなのかもしれません。




■宇宙を背景に尺八で、地球を代表する一曲を生演奏

各地の虚無僧寺に伝わる『巣鶴鈴慕』(そうかくれいぼ)、別名『鶴の巣篭り』も尺八を代表する曲の一つで、鶴が厳しい環境で子育てをする様を描いた作品だそうです。

実はこの曲は1977年に地球から打ち上げられたボイジャー探査機に搭載されたレコードにもおさめられています。

レコードには自然の音(風や波の音)に加えて、90分間分、各国の様々な音楽が収録されています。『巣鶴鈴慕』は日本を代表する曲として入っています。

今回のリアル講座では、実際にボイジャー号から送られてくる宇宙の映像を壁面に投影し、YouTubeの動画を背景に黒田さんが『巣鶴鈴慕』を演奏してくださいました!

「みなさんと、宇宙に行ってみたいと思います」という前フリから始まった尺八の演奏に、会場の皆さんが引き込まれます。



この時、参加者の皆さんは(私もですが)映像で宇宙の様子を見ながら、尺八の演奏を聴いている…という状態です。

ですが、黒田さんの120分間のお話しを聞いた後に改めて考えてみると…「一つの音の中にすべてがある」の黒田さんの言葉の通り、会場にいながら、心で宇宙に行くことは可能だったのかも、と思えてきます。

生きることのやるせなさや、喜びは自分にとっては大きなことですが、自然の摂理が作り上げる壮大な環境、そうしたものと比べたらどうってことのない存在であるはず。でもそんな小さな自分が、思考や記憶力を手に入れたからこそ悩むということ…そうして自分を俯瞰できることが「宇宙に行く」ということなのかもしれません。

黒田さんのお話しを聞き、演奏を鑑賞していると、楽器というのはただ決められた動作を行い音を出すものではなく、奏者の哲学に支えられながら物語を伝えるための道具なのだな、と思えてくるのでした。

尺八の知識だけでなく、尺八と生きている黒田さんの考え方をたくさんお聞きしたからこそ、普段考えが及ばない色々なことに思考が広がる貴重な機会となったように思います。




■一人一本の尺八体験と演奏後のお抹茶

レクチャーコンサートは約90分でしたが、興味深いお話しに耳を傾け、生演奏に聞きほれているとあっという間に時間がたっていました。

最後の30分間は、参加者の皆さんの尺八演奏体験とお茶の時間としました。

尺八はリコーダーとは異なり音を出すのが難しい楽器とのことでしたが、黒田さんの的確なご指導により、参加の皆さん全員に一度は音を出してもらうことができました。

201904_9
▲息の吹込み方をアドバイスしてくださる黒田さん

ちなみに、尺八は入門の楽器(樹脂製)がAmazonで売られており、興味がある場合にはこちらを使ってスタートするのが黒田さんのおすすめとのことです。


今回の会場は浅草にある「静心 Shizu-Kokoro」さんでした。お茶碗やお抹茶の販売もしています。

参加の皆さんで演奏を体験したあとは、こちらで購入したお茶を皆さんでいただきながら、引き続き黒田さんの音楽談話をお聞きしました。

201904_7


静心さんでは普段、裏千家茶道の羽根石先生によるお茶体験やお稽古を行っているそうです。


■次回のお知らせ【2019年5月度リアル講座】

次回も5月の最終日曜、14時~16時にてレクチャーコンサートを開催いたします。
会場やテーマなどの詳細は、確定次第、お知らせいたします。
どうぞお楽しみに!

会場にお越しになれない会員の方でも、ライブ配信や動画の後日視聴も可能なので、好きな時間に好きな場所でレクチャーに参加できます。

またメルマガで配信される須賀さんのミニクイズで、楽しみながら、レクチャーコンサート前に関連知識が身につきますよ♪


●会員の申し込みはこちらから。シンフォニアのコンセプトなど詳細も公開されています。(須賀麻里江公式サイト)

●第一回講座のレポートはこちら(外部のブログが開きます)
月額音楽講座「シンフォニア」1月に参加しました!【バイオリン】